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実際に起きた「地面師」による不動産詐欺事件 全3話

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皆さんは地面師(じめんし)という言葉をご存知でしょうか。

地面師とは、他人の土地なのに、あたかも自分が所有者のように装って、土地の代金を騙し取る詐欺師のことです。

大きな事件となると、地面師は個人ではなく、グループで詐欺を行うことが多く、かつ、その地面師グループの中でも騙し合っていることが多いので、地面師の首謀者を押さえるのが、難しい状況になっているのが実情です。

地面師が暗躍し始めたのは、戦後の混乱期と言われていますが、2010年くらいから、東京オリンピックを見越した地価の上昇に合わせて、再び地面師グループが大きな詐欺事件を起こし始めています。

大企業も手玉にとってしまう有名地面師の背後には、暴力団が存在していると言われており、警察も注意を促しています。

「地面師が狙うのは、大手企業だけでしょう」と高を括っていてはいけません。

最近では、東京都内を中心に、管理が行き届いていない土地を狙って、個人が被害に逢うことも多いので、土地の取引は細心の注意を払って行わなければなりません。

⒈立ち退き承諾書を偽造して不動産を転売しようとした事件(東京都墨田区)


80代の女性が所有している土地と建物に関する「立ち退き承諾書」を偽造して、横浜市の不動産会社から7,000万円だまし取ったとして、6人が逮捕されました。

事件は、平成24年12月〜平成25年1月にかけて起こりました。

平成24年9月に、女性はかねてから通っていたクリニックの元理事長に、自分は墨田区に土地と3階建の店舗兼住宅の建物を所有しているという旨を話していました。

そして女性は、とてもこの元理事長を信頼していたため、病院に自分が持っている土地と建物を使ってもらっても良いと考えていました。

しかし、女性には贈与までの意思はありませんでした。

この女性が元理事長を信頼して話したことが、地面師たちの耳に入り悪用されてしまったのです。

地面師たちは、女性が所有する土地と建物を、病院の元理事長に贈与したという偽の書類を偽造し、それを元にして、登記をしました。

そして、所有者になりすまして、横浜市の不動産会社に「この土地と建物を転売したいのだが、転売先に資金的余裕がないので、一旦買い取って欲しい」

「その後で、買い戻すので」

という嘘をついて、不動産会社から7,000万円を奪い取ってしまったのです。

平成25年1月に、女性から元理事長に土地と建物が贈与されたように振舞って、不動産の名義変更が行われていたため、不動産会社はあっさりそれを信じてしまいました。

不動産を扱うプロであっても、登記がきちんと変更されていれば、疑う余地がないわけです。

ご丁寧に女性の署名も偽造されていたそうです。

それにしても、せっかく医師を信頼して、女性はお話をしたのに、このような事件に発展してしまって、とてもお辛かったでしょう。

とりあえず、地面師グループが逮捕されたのは、良かったのではないでしょうか。

参考元「産経ニュース」https://www.sankei.com/affairs/news/170214/afr1702140019-n1.html

⒉地面師界の大物が登場した詐欺事件(東京都世田谷区)

都内で不動産会社を経営していたAさんは、あるブローカーから、東京都世田谷区にある好立地な土地の売却話しをもちかけられました。

その土地は、NTT寮があった土地で、東急上野毛駅からすぐのところにあります。

Aさんは、建物をリフォームすれば、マンションにすることができると考え、5億円で買い取る旨を、そのブローカーに伝えました。

通常、不動産の売買は、売主と買主の2者で行われるのが通常ですが、稀にブローカーが間に入ることもあります。

不動産会社を経営していて多くの経験があるAさんは、この取引に関して何も疑っていませんでした。

このブローカーは大物地面師のペーパーカンパニー①であることを知ったのは、事件が発覚した後となります。

元NTT寮があった土地を所有していたのは、Bさんで、Bさんは、こちらの土地以外にも宮城県仙台市内にある山林も売却したいと考えていたので、元NTT寮があった土地とセットで、20億円以上で売却しようと考えていました。

ペーパーカンパニー①は、Bさんの意向を知りながら、Aさんには、元NTT寮の話しかしていませんでした。

Bさんは山林とセットで売却することを考えていたわけですから、この取引が成立するわけはなく、地面師たちは、当初から、正常な取引をすることなど、一切考えていなかったのです。

地面師たちは、ペーパーカンパニー②も用意していて、Aさんに元NTT寮があった土地を5億円で売却し、あっせん料が差し引かれた金額がペーパーカンパニー①を通して、ペーパーカンパニー②に渡り、それから、20億円がBさんに渡るという取引をする手はずだったと犯行後に語っています。

いずれにせよ、Aさんにとっては好立地の土地を手に入る願ってもないチャンスであったわけですから、購入に急ぎました。

地面師側も、「他に競合相手がいる」と匂わせて、取引を急がせていました。

なんと、売却話を持ってきたのが、4月中旬で、その月末には決済した方が良いと話していたそうです。

もちろん、Aさんは、不動産のプロですから、取引が本当かどうか、持ち主であるBさんを確認したわけです。

一般的な地面師による詐欺の場合、持ち主も地面師側が用意したダミーであることが多いのですが、今回の場合は、持ち主のBさんは本物です。

そしてその本物であるBさんと一緒に、元NTT寮のあった土地を確認しに行ったわけですから、Aさんはすっかり、この取引話を信用してしまいました。

そして、5月には東京都のY銀行町田支店において、決済をすることになりました。

Y銀行で2つの部屋を借りて、一方ではAさんが元NTT寮を購入する取引を、もう一方では、Bさんが売却代金20億円を受け取る取引をするという段取りでした。

しかし、決済の時間になっても、持ち主であるBさんが現れません。

しばらくすると電話がかかってきて、なんと、Bさんは、学芸大学駅前の支店にいるというのです。

そのため、Aさん側の社員と司法書士を、学芸大学駅前に寄越してくれという話しになり、言われた通りにAさんはしました。

実は、持ち主であるBさんは、もともと学芸大学駅前の支店に呼び出されていたのです。

時間稼ぎと目くらましをするために、地面師たちは取引を分断したのでした。

そしてAさんが振り込んだ5億円は、その日のうちに、地面師仲間の間で山分けされてしまいました。

Aさんは事情がわかってから、すぐに地面師の主犯格を捕らえ、町田警察署へ連れていきますが、すぐに釈放されてしまいました。

その後、事件として立件されるのに、2年の月日が流れたそうですから、警察としても、なかなか足取りを掴みにくい事件だったのかもしれません。

気の毒なのはAさんで、一時は町田警察署の前で、焼身自殺をしようかと思いつめたほど地面師たちだけでなく、警察に対しても不信感を抱いたそうです。

この事件に登場した地面師たちは、地面師界の中ではとても有名な大物ぞろいであり、あのアパホテルの地面師事件でも登場した司法書士もからんでいました。

プロの不動産会社がなぜ騙されるのだろうと一般人である私たちは思いがちですが、今回のケースは、土地と建物の所有者が本物だったために、信用してしまったということが理由として挙げられるでしょう。

また、不動産会社としては、常にノルマが課されていることが多く、ノルマ達成のためにも、良い取引の話しがあれば、チャンスを逃さずものにしたいと思う気持ちが根底にあり、そこを地面師たちにつけ入れられるのでしょう。

参考元「現代ビジネス」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/53739

⒊地面師による土地の詐欺事件は、不動産会社だけでなく、一般の私たちにも起こり得ます


例えば、マンション・アパート経営に行き詰まり、多額の借金を抱えていたDさんの元には、地面師たちが現れ、「老人ホームに立て替えて、その収益を借金返済にあてませんか」という話を持ってきました。

この話にDさんは乗ってしまい、土地の所有権を不動産会社に移してしまいますが、その後、1年以上たっても、老人ホームが建築されることはなく、Dさんは騙されたことを知ったという事件も発生しています。

参考元「テレ東プラス」https://www.tv-tokyo.co.jp/plus/business/entry/2019/018952.html

メディアでは、数十億規模の地面師事件ばかりが取りだたされていますが、これは氷山の一角。

数千万円規模の地面師事件の数は、表にあまり出ないだけで、実際には頻繁に起きているそうですね。

⒋まとめ


少し前に、某有名な弁護士先生たちと地面師たちの魔の手から逃れるために、何を気を付けたら良いのか?についてをお話をする機会がありました。

しかし、運転免許証も、実印も印鑑証明書も、登記識別情報通知(権利証)も、本物そっくりのものを簡単に偽造できる時代の中で、その場では具体的な対策法は見出せませんでした。

少しでも怪しいなと感じたら必ず相手方の事務所で打ち合わせをすることでペーパーカンパニーではないことを確認するなどして足をつかうしかないのでは?と、お酒の場であったからかもわかりませんが、大した答えは出ませんでした。

一体私たちは、地面師たちの魔の手から逃れるために、何に気をつけたら良いでしょうか。

そこで、まず言えるのが、「急がない・焦らない」というマインドの部分への注意でしょう。

それから「うまい話しに乗らない」ということも大切です。

そして少しでも腑に落ちない点があったら、取引を進めないという勇気が大切です。

本人確認も重要で、例えば、土地の所有者しか知り得ないような、物件の情報や固定資産税についても、確認してみましょう。

鎌をかけてみるのも良いと思います。

例えば、怪しいと感じたので、所有者に成りすました詐欺師に干支に関する質問をしたら、見事に間違えたことで詐欺師と見破ることが出来てたとの実際にあった話もあります。

私たちの大切な資産を守るために、本人確認を確実に行いながら、じっくりと取引することが重要ですね。

この度も最後までお読みいただきまして有難うございました。